経営者が知るべき部分最適化の罠

この記事の対象読者:ウェブの重要性を感じている経営層の方
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2016年8月現在、ポケモンGoという位置情報を使ったゲームが大流行している(ちなみに私もレベル4までは頑張ってみた)。

次から次にやってくる客、嬉しいはずの悲鳴が本当の悲鳴に?

Yahoo!ニュースによると、マクドナルドが実店舗をポケストップなる、ゲームを有利に進めることができるアイテムの獲得場所として連携したとのことだ。このゲーム上のアイテム欲しさに多くのゲームユーザがマクドナルドに殺到し、店内はかなり活況の様子である。しかしながら来客数は増えたものの売上高アップにはあまり貢献しなかったとの声を聞く。ゲームをするためだけにコーヒー1杯で長居するゲーマーの増加、そんな客単価の低い顧客が席を占有することにより、マクドナルドの平均的な顧客層が遠ざかってしまったのだろうか。来客数は増えたが、その客の質(客単価)が低下したことにより、これらの掛け合わせで計算される売上高は下がってしまったという可能性だ。

他にもこんな話がある。とある地方のスーパーで、チーズやサラミ、冷ややっこに枝豆、これらおつまみ系の売上高が一時的にパッとしなくなったらしい。それならばとこれらの商品を陳列する代わりに、売れ行きの良かったサラダやパスタの種類を増やし、おつまみ系の場所にも追加で置くことにしたそうだ。

結果はどうなったのか。そのおつまみ系が置いてあった棚に限定して効果を話すと、よく売れる商品群に置き換えたことにより売上高はいくぶん改善したらしい。では店舗全体ではどうなったか、売上高は全体としてむしろ下がってしまったということだ。

それはなぜか。おつまみが無くなったことによりビールをはじめとしたアルコール好きの来店が遠のいたのである。結果、酒類の販売量が直接的に低下したのはもちろん、それら顧客がお菓子やできたての惣菜等もついで買いしていたようで、間接的に惣菜の売上高までもが下がってしまったのだ。

さて、これら情報の精度はともかくとして、あなたはどう思っただろうか。

どちらのケースにおいても、来店数を増やす、売れている商品の棚面積を増やすといった、一部分の最適化としては決して間違ってはいない。しかしながら一歩引いて経営者の立場からみると、木を見て森を見ず、結果として間違った施策をしてしまっていることがお分かりになるだろう。

部分最適化の弊害は、インターネット上でもしばしば発生する。

一例としてこちらのスライドを紹介したい。

バナーのクリエイティブABテスト結果

上部2つのバナーがリスティング広告としてYahoo!ニュースなどのディスプレイネットワークと呼ばれる場所に出稿した広告バナーのクリック率のデータである。左右のバナーの違いは背景色が紫か白かの違いのみ。広告の効果を、呼び込む事ができたユーザ数を評価指標として見ると、右側の白いバナーの方が、より多くのユーザを呼び込めたということで優れていると言える。

下部2つのバナーは、広告から訪問したユーザが最初に見るであろうホームページ最上部に設置したバナーとウェブサイト直帰率のデータである。直帰率というのは、訪問後に最初に訪れたページだけを見て直帰してしまった人の割合を指すものであり、直帰した人の割合が相対的に低い左側のSALE訴求のバナーの方が優れていると言うことができる。

これら結果になった理由を少し考察してみよう。上部の広告出稿バナーのクリック率に関しては、紫のドレスが背景に溶け込んでしまいドレスの良さがユーザにしっかりと伝わらず、クリックしてみようと思わなかったと推測する。

下部のホームページ設置バナーの直帰率での比較では、1着10万円以上するワンピースに対して価格訴求をしたことでユーザをより惹きつけることができたのかもしれない。なお通常はこういった仮説をもとに次の施策につなげていくのだが今回は主題ではないのでおいておく。

ここで私が強調したいのは、良いバナー同士の組み合わせよりも、悪いバナー同士の組み合わせの方がトータルでの直帰率は良かった、ということだ。すなわち単体のテストでは悪い結果だったバナー同士を組み合わせた方が、トータルではよりユーザを惹きつけたという点である。(本来は売上高で議論するべきであろうが、そこまで信頼できる統計優位性を確保したデータがとれなかった点はご容赦ねがいたい。)

バナーの最適な組み合わせ議論

クリック率の高いバナーが必要以上にユーザを魅了し、購入意欲の低いユーザまで連れ込んできてしまったのか。はたまた紫のバナーでユーザをひっぱり、紫のトップページバナーで出迎えたことがスムーズなページ移動につながり直帰する人を低減したのか、はっきりとした理由はわからない。

しかし明確に言えることがある。それは、部分部分の最適化の集合体、すなわちユーザをウェブサイトに連れてくるという集客部分の最適化と、ユーザをウェブサイトで迎え受けるランディング部分の最適化を掛け合わせたものが、必ずしも全体の最適化にはつながらなかったと言うことだ。

ウェブ広告に出稿、ユーザを多く集めようとフックの効いた誘因力の高いバナーを作るというのはよくあることだ。しかし広告費が増えた割には成果獲得・売上高アップにはつながらなかった、このような話しも集客部分だけに最適化した結果、全体としての最適化から遠ざかってしまった事象だろう。

はたまたEFO(エントリーフォーム最適化)の場面。

ウェブ担当者が少しでも多くの申し込み・注文獲得を目指すあまり、必要以上にフォーム項目をスリム化してしまい、ウェブ経由の顧客情報獲得後のリアルな営業時において営業担当者が必要とするデータが抜け落ちてしまったケースを見た。そこまで酷くなくとも、フォーム項目を絞り過ぎた結果、ウェブサイト経由の申し込みは多くなったにもかかわらず、その後の営業成約率が悪化したという例もいくつか経験がある。(ウェブで申し込み→実店舗への来店で商談後に受注、ウェブで資料請求→資料・カタログ発送後に受注、このような2ステップを必要とするモデルケース)

必要以上の部分最適化には罠があるのだ。

あまりに簡単に申し込みができてしまうと、見込みの薄いユーザまでも取り込んでしまうリスクとなる。さらに、簡単すぎる申し込みフローにより、その後に送られてくる資料に感じる価値の低減、来店し話を聞けるという機会に対する期待値低下を誘因すれば、最終の受注数すらも減少してしまう可能性がある。人間という生き物は、簡単に手に入れたモノにはそれなりの関心しか払えず、苦労してやっとの想いで得たモノには大きな価値を感じるものだ。(無料セミナーとして募集をすると、事前の申し込み数は増える一方で欠席率が高くなる、しかし500円でも課金すると事前の申し込み数は多少減っても、最終の参加者はむしろ増えるのも同じ理由。)

なにかと話題なコンプガチャのレアなキャラクター、希少性が高いから入手したあとの満足感が高まるだけではなく、苦労して手に入れるというプロセスがあるからこそ、獲得後の大きな満足感につながるのだろう。

このあたりの事例を考えても、エントリーフォームの最適化というフォームだけの最適化に走りすぎると、むしろ最終のゴールからは遠ざかってしまうことが理解いただけると思う。俯瞰的立場から考慮する全体最適化が必要なのだ。

私は、これら結果をもって『全パターンで掛け合わせて最適な組み合わせまで含めて完全網羅なテストを実施すべし』などと言うつもりはない。そうではなく、ある部分の最適化が近視眼的なミクロなパーツだけの最適化になり、結果として目標から遠くなってしまう可能性があるということを言いたいのだ。部分最適化と全体最適化、両者の間には絶妙なバランスが求められる。

部分最適化は担当者がもつ視点、全体最適化は事業責任者・経営層がもつ視点。どちらかひとつの役割をもつ人材だけではなく、両者が一体となりそれぞれの視点をぶつけ合えば、インターネット活用が事業成果向上に寄与すると考えている。

この考察のまとめ
・部分最適化の集合が、必ずしも全体最適化にはつながらない
・部分最適化をすすめるときには、一歩ひいた視点から評価する視点をもつ必要がある
・これらの全体最適化・俯瞰的役割は事業責任者である≪あなた≫である

追記-2017/1/19 部分最適化に陥らないために、部分最適化の失敗事例を5パターンに分けて掲載したKindle本を執筆しました。良かったらこちらもどうぞ。以下紹介文です。

「ウェブサイト経由での売上高をアップしたい」「ウェブを活用して採用力を強化したい」これらの目的を達成するためにウェブサイトに求められる役割はますます複雑化・多様化しています。成果をあげるウェブサイトを構築するためには、各構成要素の一連の流れを意識することが大切。 ここで重要となるのが、物事を俯瞰して観察する「鳥の視点」です。目的達成に向けて全体を見渡しながらマクロな視点をもって改善に取り組むために必要な視点を強化するため、私の5つの失敗事例を活かしていただければ幸いです。

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